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医療機器(ドレッシング)業界向け開発ストーリー

安全性に配慮した、
使いやすいドレッシング材
(絆創膏)の未来に向けて

アルケア株式会社 様

医療機器

アルケア株式会社様で開発された新規粘着剤を新市場に展開する取り組みにおいて、特殊な粘着剤を工業化する場合、需要と供給のバランスを調整する必要がありました。当社でのこの特殊な新規粘着剤を活用した取組みを紹介します。

事例のポイント

  • ドレッシング貼付時の化学的刺激低減
  • 安全性に配慮した新規粘着剤の自社塗工
  • ドレッシングの貼り付け易さを追求

王子グループ 機能材カンパニーが選ばれた理由

  • フィルム、不織布等への粘着剤の塗工が可能
  • 各種材料を用いて、様々な市場に展開するドレッシング製品を設計生産する一貫製造が可能
  • 小売店様へのドレッシング製品販売実績

お客様の課題・開発の背景について

化学的刺激の少ないドレッシング製品を広くお届け

新タック化成株式会社 生産本部 豊中工場 研究技術部 副島部員

新タック化成メディカル部門の主要製品に『ドレッシング』があります。『ドレッシング』というのは医療用途に使用される絆創膏類の総称ですが、ドレス(覆う)を語源として医療業界で一般的に使用される言葉です。ドレッシングには色々な製品があり、フィルムや不織布などに粘着剤を塗工した粘着材料とパッド(コットン、不織布など)を組合せた製品も含まれます。

粘着剤付きのドレッシングを皮膚に貼付すると、皮膚には様々な刺激が加わります。
① 粘着剤の成分が影響する化学的刺激
② ドレッシング材を引き延ばして貼付した時などに加わる物理的刺激(ドレッシング材が元の大きさに戻ろうとする力)
などが代表例で、皮膚の赤みや「かぶれ」の原因になります。有機溶剤系の粘着剤では、その合成時にポリマー化できなかった残留モノマーが化学的刺激の原因となる可能性が否定できないことが課題としてあります。主に病院に粘着製品を提供しているアルケア株式会社様で開発された医療用エマルション粘着剤は、主に人体の表面である皮膚・創傷に使用することを目的に設計され、化学的刺激の低減など安全性に配慮された粘着剤です。アルケア株式会社様は自社でも医療市場向けのドレッシングの生産、販売を行っていますが、当社とのパートナーシップのもと、皮膚刺激に敏感なお客様への販売ルートを拡大することが検討され、当社での製品化を取組み始めました。

当社はドレッシングを医療市場向けに販売するメーカー様へのOEMや、ドレッシングを販売する小売店様のOEM(プライベートブランド用など)などの生産委託を実施しており、その保有機能として、各種材料に対する粘着塗工、様々な要求に対応するドレッシング材加工、滅菌など一貫生産できる強みを持っています。エマルション粘着剤を活用したドレッシングの生産と販売に取組み、特にドレッシングを販売する小売店様への製品展開に繋げました。

開発中に苦労したことについて

『ここ、こうしてみれば?』『それはできないね…でも待てよ…あっ、そうか』 問題解決のヒントは現場にある

現場を複数の目で見て、情報交換をすることで問題解決ができました

エマルション粘着剤の取組みは、①特殊な保管管理が必要、②工業材料としては短期間である使用期限の遵守など、保管条件を含む各種情報への対応から始まりました。①保管管理の条件は、それまでの粘着剤とは異なり、粘着剤の粘度など環境条件により変化する物性を把握する必要があります。粘着剤を安定塗工するには塗工時の粘度管理が重要であり、入荷した粘着剤の粘度を自社の塗工機で塗工可能な範囲に調整する条件調査が必要でした。②使用期限の条件は、使用前に粘着剤を保管する場所や時間などの管理マニュアルを作成しました。こうして、各種情報に対応した条件に限定していくことで塗工に必要な全ての条件に整えることができました。実機ベースで粘着材料およびドレッシング製造のテストを行い、実際の操業性、初期の品質評価で問題無い結果が得られました。

続いて設定する品質保証期間内での品質確認を行いました。当社はドレッシングの場合、品質保証期間を3年としています。経時的な品質変化の把握は室温保管での評価も行いますが、ドレッシングを40~60℃の加速劣化条件で保管した後の品質測定で先行評価を行います。ドレッシングは1つずつ滅菌包装(当社の場合はフィルムと非塗工紙をヒートシール)と称する個包装を行っており、品質評価にはサンプルのフィルムと非塗工紙の開封、取り出したドレッシングを肌に貼付するまでの手順に支障が無いかの確認も行います。ここで調査を進めていた防水フィルム型ドレッシング(粘着剤を塗工したフィルムとパッドを組合せた製品)で問題を発見しました。
当社の防水フィルム型ドレッシングのフィルムは厚み25μm程度と薄い物です。納入されるフィルム原反は、25μm厚のフィルムに強度補填用のポリエチレン層をラミネートして巻き取ったものです。当社ではラミネート状態のままフィルムに粘着剤を塗工し、使用可能な幅にスリットして巻取り、ドレッシングを生産する設備で使用します。そのため防水型ドレッシングはポリエチレン、フィルム、粘着剤、パッド、剝離紙(粘着剤との貼り合わせ用)で構成されます。最終ユーザー様が貼付する時の手順は、①剝離紙を除去、②肌に貼付、③ポリエチレンの除去の順に行ってもらいますが、当時の防水フィルム型ドレッシングのポリエチレン除去は、ドレッシングの端部からフィルムと剝離させる方式を取っていました。発見した問題はポリエチレン除去時にフィルムからの剝離がしにくくなるものでした。

原因はドレッシング材の端面からはみだした僅かな粘着剤がフィルムとポリエチレンの断面にくっつき、ポリエチレンの剝離を阻害するという現象でした。『他の品質は問題無いので、早急に解決しなくては』と思いながら、ポリエチレンを端部から剝離する方法の改良を試みましたが決定的な対応には至りませんでした。他の剝離方式を検討する中でセンター剝離方式(ドレッシング材の幅方向中央部分でポリエチレンのみにスリットを入れ、ポリエチレンを観音開き状に除去)も対応の方策として考えることにしました。但し、スリットを入れたのみでは最終ユーザー様からポリエチレンが剥がしにくいとの指摘を受けることが予想され、ポリエチレンの剝離開始部分を剥がし易くする手段を講じることが必要でした。

製品形態に関する特許、実用新案などを調査して自社独自の方法、実生産を行うための方策、安定生産を継続して行う手段を提案する必要があり、設備メーカーへのヒヤリング、部内の同僚や操業オペレーターにも相談しながら課題を抽出し続け、提案内容を模索していました。
ある日、オペレーターから、センタースリット方式の実機対応ヒントをもらいました。『あっ、そうか』と驚きを覚え、操業の対応方法を確認してみると何とかできそうです。『問題解決のヒントは現場にある』との言葉をかみしめた瞬間でした。設備投資は必要であったものの、テスト時間枠を拡大しての再試作を実施して、実機操業性と品質共に問題無いことを確認し、生産にあたっての目途が立ちました。

開発の成果について

安全・安心な製品をより広く多くのお客様に届けるためのお手伝いができました!

より安心して使える製品を市場のスタンダードにしていくことが、私たちの使命です

この開発で完成した、エマルション粘着剤を利用した防水フィルム型ドレッシングは、営業部よりドレッシングを販売する小売店様に提案した結果、皮膚への化学的刺激を低減するコンセプトの反響は大きく、多くの小売店様で採用されました。安全・安心が何よりも重要であるということをお客様に再確認させられた思いです。販売量を拡大することで、エマルション粘着剤を利用した防水フィルム型ドレッシングが市場のデファクトスタンダードとなっていくでしょう。

今後の展開ついて

皮膚に貼るモノ、安全性も含めて一緒に作ります

小さなお子様にも、安心して簡単に使っていただける製品開発を目指しています

当社では粘着剤をフィルム以外にも不織布や伸縮布などの様々な基材に自社塗工した粘着材料の販売も行っています。また、自らがユーザーとして満足できる製品を提供する為、使い易さはもちろんのこと、製品の安全性、原材料の安全性を確認しながら、製品開発を行っております。皮膚に貼付する用途などで粘着材料を探しているお客様のお声掛けをお待ちしています。

お客様の声

エマルション粘着剤を使用した製品の製造条件確立までには、当社としてもかなり時間を費やしましたが、 その製造ノウハウと新タック化成株式会社様の開発力を融合することで、今回の新製品へと結実しました。 当社が開発したエマルション粘着剤が、より多くの方のお役に立つものと期待しております。 今後もこうした連携を通じて、医療現場の課題解決を行いたいと考えております。

お客様プロフィール

企業名
アルケア株式会社
所在地
東京都墨田区錦糸1-2-1 アルカセントラル19階
設立
1955年7月
従業員数
530名(※2016年6月現在)
事業内容
メディカルケア、ホームヘルスケア、スポーツ&セルフケア用品の開発並びに製造・販売、輸出入
ホームページURL
http://www.alcare.co.jp/index.shtml

事例に関するお問い合わせ

掲載しきれなかった事例もございます。また、共同開発などのご相談もお気軽にお問い合わせください。

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